
これからのモンテッソーリ教育

現在、日本においても国際化への流れは速く、また止まることのない技術革新により、今後も加速的な社会の変化が予想されています。そのような変わりゆく社会の中で、文部科学省も急速に取り入れようとしている国際バカロレアの教育プログラムについては、ご存知の方も多いと思います。私の娘達もお世話になった国立、都立の学校は、どちらもその教育を取り入れた新しい形のインターナショナル・スクールといわれる、海外からの帰国生や外国からの生徒、そして日本に在住の生徒が一緒に教育を受け学び合う学校でした。国際バカロレアの教育の目的は、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」というものであり、娘たちの日々の学校生活、学習の様子は、私がこれまで知っていた学校教育とは全く違い、驚かされることや学ぶことの連続でした。そして、そこで目指す全人的教育は、まさにモンテッソーリ教育と重なることにも、気付かされました。
国際化への波のなか、日本でも乳幼児の頃から英語教室、バイリンガルの教室で英語を学ぶ子どもは急速に増えており、幼い頃からの英語教育、国際教育に対する関心が非常に高まっています。子育て中の親は、子どもたちが大人になる頃の社会の変化に対応できるよう、様々な形態の教育に関心を持ち、可能な限りの最善の教育を子どもたちに受けさせることに大変積極的です。
2030年には人工知能の進化により日本でも今ある職業の半数が代替可能になるといわれる中、ロボットでは代替のできない、感性、創造性、リーダーシップ、といった能力の育成の必要性が、問われています。これまでの日本の教育においてはまだ十分でないといわれるこれらの能力ですが、モンテッソーリ教育においては、約100年前にローマで「子どもの家」が開設された時から重視されてきたことでもありました。また、モンテッソーリ教育は、国際バカロレアの教育の他、OECDの掲げるキー・コンピテンシーとも重なり、現在の大きく変動する世界の中でまさに求められている、全人的な教育です。
近年、モンテッソーリ教育が注目され、それを取り入れた教育機関も世界中で大幅に増えている理由として、世界の著名人の多くがその教育を受けて育っているということがあります。世界的なイノベーター、例えばマイクロソフト、グーグル、アマゾン、フェイスブック、ウィキペディアなどの創始者、また、オバマ前大統領やクリントン夫妻、またアンネ・フランクなども、モンテッソーリ教育を受けてきたということで知られており、ネット上でも多くの情報を見ることができます。それはモンテッソーリ教育により、子どもたちが自ら学んでいこうとする力を身に付けること、そして自分で選んだ課題に集中して取り組み、そこから新しい発想を生み、それを実現する力を自らのうちに育むことと大いに関係していると思われ、それらはまさにこれからの時代に求められている資質に他ならないことを、改めて思わされます。
欧米ではモンテッソーリ教育は特別なものではなく、アメリカではモンテッソーリ教育の小学校も大幅に増えているなど、4分の1の人が何らかの形でその教育を受けているといわれます。日本でも、近年メディアでも取り上げられたり、家庭でできるモンテッソーリ教育について雑誌で連載され図解付きの本が書店や図書館にも見られたりなど、その教育への認知の広がりには驚くばかりです。
一方で、日本においてモンテッソーリ教育は、時に早期教育、知育教育としてとらえられてしまうこともあります。しかし、先にも述べましたが、本来モンテッソーリ教育は、全人格的な成長を目指すものです。教育の現場において、その教育の目指す目的がともすると曖昧になってしまうという傾向は、日本においてモンテッソーリ教育が導入された時代から常に直面している課題でもあります。目先の成果に捉われることなく、長い目でみた本当の意味でのお子さんの成長をゆっくりと見守っていくことは、私たち大人が日々振り返り意識していかなければならないことに思われます。
子どもの人格形成の基礎を培う幼児期に、子ども自ら何に触れ何を感じ、どのように自分や他者、物事に向き合っていくかを学んでいくことは大切です。幼児期に心から安心して毎日を過ごし、その中で揺るぎない自己肯定感を持ち、積極的、自律的に学んでいくことの喜びを知るためには、大人の準備する環境と働きかけのあり方は重要です。また年齢も異なる友達との多様な関わりを通して、子ども同士助け合い、互いを尊重し学び合い、協調性やリーダーシップを身に付けていきます。
現在日本において、小学校以上のモンテッソーリ教育を行っている学校は僅かであり、オーストラリアにおいても、その教育を行う小・中学校は、大変限られています。しかし、幼児期にモンテッソーリ教育で培われたこのような資質は、そこで終わるものではありません。小学校以降の自ら学んでいこうとする姿勢、意欲や、周囲の人や物事との温かく安心感を持った関わり、そしてアイデンティティの確立に大きく影響し、生涯にわたっての基礎となり確実に続いていくものです。
モンテッソーリ自身も晩年はその教育メソッドの枠を超え、人類の普遍の平和を求めていきました。私たちもその教育理念から多くのことを学びながら、これらの世界に生きる目の前にいるお子さんを見つめ、その心の豊かな成長を、よりよい世界を築く確かな一歩として、日々大切に支えながら歩みたいと思います。